2011年5月24日火曜日

胃がん撲滅計画

胃がんはなくせる
ピロリ菌除菌が効果
北大教授、撲滅計画提唱

かつて日本人の国民病とも称された胃がん。がんの死亡者数では肺がんの増加で1990年代に2位になったが、発症者数では依然として最も多い。近年、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染が主な原因と分かり、制圧も夢ではなくなってきた。北海道大の浅香正博特任教授(がん予防内科学)はピロリ菌の検査と除菌を中心とした「胃がん撲滅計画」を提唱している。

▽感染で萎縮
胃がんの大半はピロリ菌感染症だ」と浅香教授は言う。胃がんは過去、塩分やストレスなどが原因とされてきた。しかし、1982年に胃粘膜からピロリ菌が発見されて以降、研究成果が積み重なり、ピロリ菌の長年の感染で胃の粘膜が萎縮して、胃がんが発生することが明らかになってきた。ただし、数%はピロリ菌と関係のない胃がんもあるとされる。
ピロリ菌に感染したことがない人は胃がんを発症することはほとんどないが、問題は、既にピロリ菌に感染している人。除菌したら胃がんを予防できるのだろうか。
浅香教授らは、早期胃がんで内視鏡治療をした患者505人について、治療後に除菌した集団としなかった集団とに分けて3年間追跡した。いずれも切除した場所とは異なる場所に胃がんが再発した人が出たが、除菌した集団はしなかった集団に比べて発症率が3分の1になった。

つまり、感染者は胃が萎縮するなど症状が進んでいるため、除菌しても発症を完全に予防することはできない。しかし、胃がんになるほど症状が進んだ人でも除菌をすれば発症が3分の1に抑えられることから、胃がんにまで至っていない人なら、除菌で発症は3分の1以下に抑えられることを示しているという。

▽50歳以上対象
除菌の効果は胃の萎縮が進んでいない若いうちほど大きく、推計では男女とも30代までに除菌をすると、ほぼ100%胃がんにならない。40代で除菌すると男性は93%、女性98%、50代では男性76%、女性92%、60代では男性50%、女性84%で予防できるという。
ピロリ菌は胃酸の分泌が未成熟の幼児期に感染し、成人では感染しないため、除菌後に再び感染することはまずない。
浅香教授が提唱する胃がん撲滅計画は、胃がんの死亡率が低い年代を除いた50歳以上が対象。ピロリ菌検査に加え、胃の萎縮を調べるペプシノゲン検査を義務付ける。いずれも血液検査で、二つ合わせて「ABC検診」と呼ばれる。両検査で問題ない人は、ほぼ胃がんにならないため以後の検診は不要。ピロリ菌に感染しているが、胃の萎縮が進んでいない人は、除菌すれば胃がんになる可能性は極めて低い。胃の萎縮が判明すれば、除菌をした上で定期的な内視鏡検査を実施する。
萎縮が進みすぎるとピロリ菌の数が減り、検査では見掛け上「なし」と判定されるが、これはがんになる可能性が最も高い状態だ。

▽死者3万人に
現在、毎年約11万人が胃がんにかかり、年間の治療費は3千億円と推定される。団塊の世代が胃がん年齢を迎えたほか、高額な分子標的薬の導入などで年々の治療費は上がっており、2020年には5千億円を超える可能性がある。
浅香教授の推計では、撲滅計画を実施すると、受診率50%と仮定した場合で除菌費用などに毎年約270億円かかるが、20年を迎えても治療費は現行水準にとどまり、死亡者数は現在の年間約5万人から約3万人に減少する。その後はピロリ菌感染者数の減少とともに、胃がん発症者数もゼロに近づくとの見立てだ。
浅香教授は「肝炎ウイルス対策を基本とする肝臓がんでは死亡者数が急速に減っている。なぜ、胃がんはピロリ菌対策を行わないのか」と話している。

2011年5月24日 共同通信