2011年6月21日火曜日

画像に映らない肺がんを触診で発見

肺がん」安全確実で負担少ない術式開発

★帝京大学医学部附属溝口病院

肺がんでは内視鏡によって小さな傷口で治療する胸腔鏡下手術が盛んに行われている。その一方で、従来の大きな傷口の開胸手術にこだわっている施設もある。

胸腔鏡下手術は患者への負担は少ないが、内視鏡を通した2次元の画像を見るため死角が生じることがあり、なおかつ、医師は手で直接臓器を触れることができない。画像診断や内視鏡で捉えることができない臓器の内部の異変を、触診で見極めることはできないのだ。

逆に開胸手術は、医師は肉眼で臓器を確認でき触診は可能だが、傷口が大きく患者への負担は重い。高齢で生活習慣病などの他の病気を合併していると、開胸手術はできないこともある。

そんな2つの術式のメリットは活かし、デメリットを克服した治療を行い、全国に名を馳せているのが帝京大学医学部附属溝口病院呼吸器外科だ。

「自然気胸や早期がんでは胸腔鏡下手術で十分対応できます。しかし、進行がん転移性肺がんのように、腫瘍が飛び散っているような場合は、画像診断の映像だけでなく、実際に手で触れて確認した方が、画像には映らない腫瘍が見つかることもあるのです。術式にこだわるよりも確実性と安全性を常に考えています」

こう話す同科の藤野昇三教授(57)は、滋賀医科大学呼吸器外科時代の1991年から胸腔鏡下手術を導入。手術数を重ねながら、胸腔鏡と開胸手術の適応の見極めを行ってきた。そして、胸腔鏡下手術の欠点を補うため、みぞおちに片手が入る程度の切開を加え、触診が可能となる「HATS」という術式を新たに開発した。

HATSでは、胸腔鏡の画像に加え、体内に入れた片手で左右の肺を触り、臓器に異変がないかチェックができる。そして、傷口は開胸手術より格段に小さいため、患者への負担も少ない。

進行した肺がん転移性肺がんでは、画像に映らない腫瘍を触診で見つけられる利点があります。ただ、病態によって胸腔鏡だけか、HATSが良いのか見極めています。治療の選択肢が多ければ多いほど、さまざまな病態に対応できると思っています」

藤野教授は、人材育成にも力を入れてきた。その手腕が認められ、2007年に移籍して現職となり、同病院に初めて呼吸器外科が開設された。川崎市内で3番目の日本呼吸器外科学会の基幹施設として承認され、その手腕への地域の期待も大きい。

「胸腔鏡下手術ばかりでは、触診や開胸手術の技術は向上しません。患者さんの状態に合わせて使い分けができるように、オールマイティーな診断と治療ができる若手の育成にも力を入れています」と藤野教授。そのための取り組みは今も続いている。(安達純子)

<データ>2010年実績
☆手術総数97件
☆原発性肺がん30件
☆転移性肺がん15件
☆自然気胸25件
☆縦隔腫瘍9件
☆病院病床数400床

〔住所〕〒213-8507川崎市高津区溝口3の8の3 (電)044・844・3333

2011年6月20日 ZAKZAK