2011年7月13日水曜日

がん細胞による免疫制御に着目

北海道大学、がん細胞による免疫応答抑制の新たな仕組みを解明

がん細胞による免疫応答抑制の新たな仕組みを解明

<研究成果のポイント>
・がん細胞が免疫細胞に作用して,がん拒絶から発がん促進へ機能転換させることを世界で初めて解明。
・免疫細胞が産生する因子を介して,悪性度のより高い癌細胞の活性,抗癌剤抵抗を増強することを解明。
・癌細胞の免疫調節能に着目することで,抗がん免疫活性回復を主眼とした新しい抗がん剤開発に期待。

<研究成果の概要>
がん細胞のなかでも「癌幹細胞」という,より悪性度の高い集団が,悪性化,抗がん剤治療への抵抗性に大きく関係しているが,その活性にがん細胞周囲の正常細胞が関与することが注目されている。本研究では,通常はがん細胞排除に働く免疫細胞マクロファージが,癌幹細胞の働きにより逆に発癌活性能を獲得することを同定した。さらに,マクロファージからMFG-E8とIL-6という因子の産生を誘導することで,癌幹細胞の更なる活性化が惹起され,抗がん剤への治療抵抗に繋がることを明らかにした。以上の結果は,癌細胞による免疫制御に着目した新しいタイプの抗がん剤開発に繋がる画期的な成果です。


<論文発表の概要>
研究論文名:Tumor-associated macrophages regulates tumorigenicity and anticancer drug responses of cancerstem/initiating cells.(腫瘍関連マクロファージは癌幹細胞の腫瘍活性,抗癌剤抵抗性への制御能を有する)
著者:氏名(所属)地主 将久,千葉 殖幹,吉山 裕規(北大遺伝子病制御研究所・感染癌研究センター),増富 健吉(国立がん研究センター・癌幹細胞プロジェクト),木下 一郎,秋田 弘俊(北大医学研究科・腫瘍内科学),八木田 秀雄(順天堂大学・免疫学),高岡 晃教(北大遺伝子病制御研究所・分子生体防御分野),田原 秀晃(東京大学医科学研究所・先端医療研究センター)
公表雑誌:Proceedings National Academy of Sciences of United States of America(米国科学アカデミー紀要)


<研究成果の概要>
(背景)
抗がん剤による治療への抵抗性,再発の大きな要因として,「癌幹細胞」という,とりわけ悪性度が強く治療に反応しにくい特定の細胞集団が存在することが,最近判明してきました。この癌幹細胞の活性化,維持のメカニズムを解明することで新たな制がん法の開発に繋げることが可能となります。
(研究手法)
正常幹細胞の代表格である造血幹細胞の維持,活性には骨,線維芽細胞など幹細胞の周囲を構成する細胞群との相互作用の重要性が指摘されていました。そこで本研究では,がん細胞周囲に存在する正常細胞の機能に注目しました。とりわけ本研究では,癌幹細胞と免疫細胞との相互作用について検証しました。
(研究成果)
通常はがん細胞の排除に働くと考えられているマクロファージという特定の免疫細胞が,癌幹細胞との相互作用を介して発癌を促進する機能を獲得することを発見しました。その発癌活性に重要な役割を果たすのが,マクロファージから産生される「MFG-E8」と「IL-6」という分子で,これらは癌幹細胞に働くことで,その増殖活性や抗がん剤への抵抗能の誘導に重要な役割を果たすことを同定しました。以上より,癌幹細胞が本来腫瘍への拒絶能を有する免疫細胞機能を発癌促進の方向に転換することを明らかにした点で,大変重要な意義を有すると考えられます。
(今後への期待)
今後,癌幹細胞から特異的に産生され,免疫細胞の機能転換を引き起こす分子を同定し,その役割を検証することで,癌幹細胞と免疫細胞相互作用を標的とする新たなタイプの抗がん剤の開発が可能になると考えられます。これは既存の抗がん剤への感受性を高め再発予防につながる可能性を有するため,将来の制がんにおける有力な武器になりうると考えられます。

2011年7月12日 プレスリリース