2011年8月15日月曜日

ダブルバルーン内視鏡の実用化

世界初、ダブルバルーン内視鏡の実用化に成功

「自治医科大学附属病院」小腸の内視鏡検査

先端についたカメラや医療器具で検査はもとより治療も行える内視鏡。しかし、かつて小腸についてはお手上げだった。口から内視鏡を入れたときには、食道、胃、十二指腸まではスムーズなのだが、その先の複雑に曲がりくねった小腸では進まない。

肛門から内視鏡を入れて大腸を通過しても同じ。無理に押し込もうとすれば小腸を傷つけかねなかった。「内視鏡の死角」といわれた小腸は、がんの発生は少ないものの、出血や潰瘍などで苦しむ患者はいる。内視鏡の治療もできない上に、画像検査でも位置がわからない。結局、手術でしか確かめようがなかった。

そんな状況を一変させたのが、自治医科大学附属病院光学医療センター(内視鏡部)長の山本博徳教授(51)が考案したダブルバルーン内視鏡だ。1999年に世界初の臨床試験を行い、現在、世界約60カ国で小腸の内視鏡検査や治療で使用されているという。まさに世界ナンバーワン。

「小腸は5~6メートルの長さがあり、人間にとって極めて重要な臓器です。小腸に潰瘍を作る病気で腸が狭くなった場合は、以前は手術で小腸を部分切除していましたが、内視鏡的な治療であれば小腸を切らずに済みます。出血も検査をしながら止めることが可能です。それを実現するために、ダブルバルーン内視鏡を考えました」

こう話す山本教授は、95年に出身の自治医科大学に戻り、たまたま小腸の検査がうまくいかない患者に出会った。別の医師が内視鏡を押し込もうとしても、先に行かない。傍から見ながら「なんとかしたい」との思いを強めた。

そんなある日、ひらめいたのが、2つの丸いバルーン(風船)を内視鏡とオーバーチューブにつけた方法。小腸の曲がった部分をバルーンで固定することで、真ん中に通した内視鏡の方向が定まり、スムーズに先に進むことができた。

「工夫することが大好きなのです。でも、最初はメーカーに取り合ってもらえませんでした」(山本教授)

胃や大腸に比べて患者数の少ない小腸について、メーカーは市場規模が小さいと解釈して乗り気でなかった。山本教授は孤軍奮闘。試作品と実験の繰り返しで有用性を確認し、フジノンとの共同開発が実現した。そして、ダブルバルーン内視鏡の実用化に世界で初めて成功したのである。

「まだ、この方法でも不十分な小腸の病気はあります。より有効性の高い検査方法や治療法を実現したい。また、世界的に患者さんが増えているクローン病(原因不明の炎症性疾患)など、病態の解明が重要な病気もあります。いずれにしても、困っている患者さんに役立ち、将来の医学の進歩にも貢献できればと思います」と山本教授。その取り組みは現在も進行中である。 (安達純子)

<データ>2010年実績
☆上部消化器内視鏡検査8457件
☆大腸内視鏡検査4008件
☆小腸内視鏡検査(ダブルバルーン)361件
☆小腸内視鏡下処置&治療158件
☆病院病床数1130床
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