2011年12月8日木曜日

35%のすい臓がんが消失、縮小


樹状細胞で膵臓がん治療

35%で縮小や安定 ノーベル賞で注目

受賞者の死亡が発表後に判明し話題となった今年のノーベル医学生理学賞。話題の主のラルフ・スタインマン米ロックフェラー大教授は、免疫で重要な働きをす る「樹状細胞」を発見した功績が評価された。しかも自身が膵臓がんを患い、樹状細胞を使った治療で4年半の闘病生活を送っていた。樹状細胞による膵臓がん治療は日本でも行われており、最近、治療成績をまとめた論文が発表された。患者の約35%でがんが消失または縮小、安定し、「有効な治療となりうる」としている。

▽司令官と兵隊
樹状細胞はリンパ節などに存在する免疫細胞の一種で、木の枝のような突起にちなんでこの名が付けられた。がんや病原体を取り込み、その特徴を目印として、兵隊であるリンパ球に示す司令官の役割を担う。
 がん免疫療法の専門医療機関であるセレンクリニック東京 (東京都港区)では、まず、樹状細胞に育つ細胞を成分採血で患者から取り出す。培養する過程で、がんの目印であるがん抗原を取り込ませ、患者に戻すことでリンパ球にがんを攻撃させる「樹状細胞ワクチン療法」を実施している。  細胞の採取に2~3時間、培養に約2週間かかる。作製した樹状細胞ワクチンを2週間に1度の割で5~7回、3~4カ月にわたって注射する。
同クリニックは、抗がん剤や放射線治療などの標準的な治療で効果がなかった進行した膵臓がんの患者49人を対象に、以前からの抗がん剤治療に加えて樹状細胞ワクチン療法を実施、7月に治療成績を米国の膵臓学会誌に発表した。

975日生存
それによると、4週間以上にわたって、がんが消失した状態が続いた患者が2人、がんの大きさが30%以上縮小した患者が5人、がんが大きくならず安定した患者が10人で、計35%でがんが制御できたと判断された。
 ワクチン投与を始めてからの平均生存期間は少なくとも360日で、1年以上生存している患者も10人に上った。最も進行度の高いステージ4bと呼ばれる状態で治療を始め、975日延命した63歳男性の例もあった。
 同クリニックの高橋秀徳院長は「進行した膵臓がんは、通常の治療では診断から1年以上延命できればいい方だとされている。ノーベル賞の受賞は、樹状細胞ワクチン療法への世界的な期待の表れではないか」と話す。
 今回の治療で新たに分かったこともある。樹状細胞ワクチン療法に、活性化リンパ球療法を併用すると、併用しない場合に比べて平均生存期間が229日から396日に大幅に延びたのだ。

17機関で実施
活性化リンパ球療法は、患者の血液を採取し、リンパ球を増やしてから患者に戻す方法。がん細胞に対する直接的な攻撃力を高めることを狙った治療法としてかつて注目を集めたが、その後の国内外の検証で有効性が示されなかったという。
併用療法について高橋院長は「優秀な司令官が入ることで、増やした兵隊がより効果的に働くようになったのかもしれない。効果はさらなる検証が必要だ」と話す。
 米国では食品医薬品局(FDA)が2010年4月に前立腺がんに対する樹状細胞ワクチン療法を承認したが、日本では未承認。バイオベンチャー「テラ 」(東京都千代田区)は、世界で最も優先度が高いと米国などの専門家が評価したがん抗原「WT1」を使った樹状細胞ワクチン療法の開発を進め、セレンクリ ニック東京や大学病院を含む全国17の医療機関で実施している。治療費約170万~230万円は自己負担となる。

2011年12月6日 47News